ange stone story wendyside 『味噌汁の国からこんにちは☆』

パパが生きていた時は、毎朝ごはんとみそ汁だった。
田舎のばぁちゃんの送ってくれる味噌でママが作ってくれる味噌汁は最高においしい。
 パパが死んで、ママが働くようになってから朝ごはんは私が作るようになった。ママは、学校に行く前に大変だろうに。というが、私はいや。ばぁちゃんの味噌で作った味噌汁を、毎日頑張ってるママに食べてもらいたいのだ。
 ママがパパにそうしていたたように。



今朝のリリカは一味違った。
いや、正確に言うとリリカの作る味噌汁が一味違う予定なのだ。三十分早く起き、しっかりと顔を洗い、制服のブラウスとスカートをビシッと着て、一階のキッチンへと向かう。

 今日は特別な日なのだ。
田舎のばぁちゃんに材料とレシピを送ってもらい六ヶ月かけてやっと出来上がった、ばぁちゃん直伝の味噌が完成してから初めての朝だ。
 制服の上からはおるエプロンのヒモを結ぶのにも力が入る。“よしっ!”と自分に気合いを入れると、冷蔵庫の中から昨日のうちに用意しておいたダシ汁と味噌の入ったタッパーを取り出し鍋に向かった。
 今日の具は、これまたばぁちゃんに送ってもらったジャガイモだ。馴れた手つきで皮を剥き食べやすい大きさに切っていく。野菜が具なのでカツオダシ。ふわふわとカツオが漂うダシを丁寧に漉して鍋に入れ、ジャガイモも投入して火にかけた。ダシをグラグラ煮立たせないために、横目で鍋チェックは怠らない。

 いざ。
味噌を入れる段階まで準備が整った。左手には味噌の入ったタッパー、右手にはオタマ。鍋の前で仁王立ちし、大きく息を吸った。まさに息を吐き右手を動かした瞬間だった。

 今の今まで、コトコトとジャガイモが踊り、カツオの風味豊かな香りを漂わせていた鍋の中から大量のガラス製品の割れるような大きな音が響いた。びっくりしたリリカが後ずさりしようと足を上げた瞬間、鍋の中から目も眩むようなほどまぶしい光がキッチンに向けて広がった。
「えぇ〜!ちょっとナニ〜!!」
リリカは叫んでオタマとタッパーを抱きしめた。片足が上っていたからか足元がふらつく。頑張って目を開けようとするが太陽の光のようでまぶたの裏からでも眩しいと感じるほどで、開けることをまぶたが拒否する。
眩しくてふらつくのか、地面が揺れているのか分からない。とにかく倒れこまないようにするだけで精一杯だ。倒れてしまうのだけは避けないと!リリカは足を仁王立ちのまま足を踏ん張った。倒れた上に鍋でも落ちてきたら大火傷だ。
 「あ!火!」
そう叫ぶとガスコンロに手探りで手を伸ばしつまみを「切」まで戻した。ほっと息をつく暇も無く、地面が大きく揺らいだ気がし、まぶたの向こうの光がさらに明るくなったと感じた瞬間、地面の揺らぎも眩しさも消えた。

 まだ先ほどまでの光の余韻が残っているまぶたをリリカはゆっくり開けてみた。
目の前にあったものは・・・。小学校の調理室にある給食のおばちゃんがボートのオールのようなしゃもじでないとかき混ぜられそうにない大鍋にダシのようなものが煮えていた。
 「いやぁ〜、足りないっしょ、味噌。」


 第一声がそれなのは意外と冷静なのか、パニクッているのか。リリカ自身にもそれは分からなかったが自然と口からついて出た独り言だったつもりだったのだが・・・・。
「おぉ〜!!そうでしたか!味噌が少なすぎたのですね!!」
 リリカの背後で野太い男達の歓声が上った。
「へっ!!」
 その声に飛び上がり振り返ると、四人のコック服を着た男達が嬉しそうに手を取り合っている。ひょろっとしてちょっと不健康そうな男が甲高い声をあげている。
「そっか〜!良かったですね!コック長。これで眠れない夜も終わりですよ!」
 声をかけられている“コック長”らしいマッチョなおじさんは、これまた嬉しそうにピョンピョンと飛び跳ねている。略して“マッ長”。
「あ、あのちょっと、すいませ〜ん。ちょっと聞きたいんですけど・・」
 リリカは男達に声をかけてみるが、彼らには届かない。嬉しさでテンションが上り過ぎているようで、一人、また一人とピョンピョン飛び跳ねだした。
「おぉ〜い!そこの浮かれマッチョさーん!聞いて欲しいんですけどぉ〜!」
近づいて声のボリュームを上げてみるが、マッ長はリリカの声を掻き消すボリュームだ。
「いや〜、眠れなかったの知ってたの!?いまいち美味しくなかったのは、味噌の割合だったのねぇ。味覚がバカになっちゃったかと思って心配だったのよ。ほんと、盲点だったわ〜。」
 マッ長の妙にクネクネした腰つきがリリカの神経に障る。話を聞かず、手を取り合って飛び跳ねている若いコック達にも。もう我慢がならなかった。

「ってか!盲点て!気づけよ〜!!」
とりあえず、力の限りの声でそこをまず突っ込んでみた。リリカの大きな声に、我に返った浮かれたコック達は慌ててリリカにかけ寄った。
「す、すいません!リリカ先生。つい嬉しくって浮かれちゃいました、てへ。」
マッ長は深々と頭を下げた。それに倣い、後ろのコック達も頭を下げる。
「あ、いえいえ、お喜びの所お邪魔してすみません。」
深々と頭を下げられたせいか、リリカもつられたようにバカ丁寧に返してしまう。ここら辺、両親のしつけの良さが出ているのかもしれない。お互いが頭を上げ、目が合ったところでリリカは疑問をぶつけてみた。
「えーっと、あの何で皆さん、私の名前を知ってるんですか?それに『先生』って一体・・・・って言うか、ここドコ?あなた達はダレ?」
話している途中からリリカは怒りがこみ上げて来た。理解不可能な状況に、浮かれたコック達、なんで自分がこんなに下手に出なきゃいけないのかと。その感情が口調に出てしまっている。しかし、マッ長は気にしない、と言うか気づいてない。にこやかに、リリカの空いている右手を大きな両手で握りしめると上下に振り出した。
「やだなぁ〜先生ったらぁ。とぼけちゃって。映像今日の番組『リリカのお料理☆クッキング』でいつも私達、勉強させて頂いてるんですよ。それから、ここはキッチンで、私達はリリカ先生の大ファンのコックですぅ〜!」
質問に答えてくれたのかありがたかったが、聞いた事のない単語や身に覚えの無いことに、リリカの頭の中はクエスチョンマークで埋め尽くされた。
「えーっと、あの言っている意味がさっぱり・・・」
「リリカ先生にお会いできるなんて感激だわ〜。」
マッ長がリリカの手を持ったまま、先ほどコック達とやっていたようにピョンピョンと飛び跳ねだした。身長差と力の強さにリリカの頭はガクンガクンと上下に揺らされている。
聞いちゃいないし、とりあえず飛び跳ねるのを止めてもらいたいが、口を開いたら舌を噛み切りそうだ。体は為すがまま揺らされ、額には怒りマークが増えていく。もう少しで関節が外れそうだと思った瞬間、キッチンのドアが乱暴に開かれ、ものすごい勢いで少年が入ってきた。
 ドアの開かれた音に広いキッチンは静まり返った。その場にいたリリカとコック達は驚いたまま少年の顔を見つめた。
 少年はキッチンにいるコック達を見た後、リリカを見つめ苦い顔をしながら、大きなため息をついた。
「あぁ、何て事だ・・・」
そうつぶやくと膝から落ちるように床に座り込んだ。
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